昔々、ずぅーっと昔のこと。
ある年の暮れに動物の神様が、動物どもに「元旦に新年の挨拶ば来い。したらば、一等から十二等まで選んで、その一年の間動物のかしらにし、人間世界を一年ずつ守らせてやるど」と、いうお触れを出したそうな。
それを聞いた山や森や野の動物ども、「よっしゃー、われこそ来年のかしらになってやるどぉ」と、元旦を今か今かと待っておった。ところが猫は、どうしたものだか、神様のところへ行く日をポイッと忘れてしもうた。で、仲のいいネズミのところへ聞きに行った。
「ねずみどん、ねずみどん、ちょっと尋ねるが、神様のところへ行く日はいつだったかな?教えてくれんか」。ほしたらネズミ、ケロッとした顔で言ったそうな、「そりゃあ、二日の朝に決まっておるがな」「ほうか、ほうか、二日だな。すまん、すまん」猫は、うれしがって帰っていった。
こうしているうちに、大晦日になった。牛は、すっかり薄暗いところでモソモソ、モソモソやっておった。「おら、人一倍のろまやで、今夜たつことにするべ」と、旅支度をはじめたそうな。それを屋根裏からのぞいていたネズミは、ぴょんと牛の背中に飛び乗った。そうとは知らん牛は、夜道を霜をふみふみ御殿へ向かっていったそうな。やがて御殿の門へついた。
「ほー、誰も来ておらん。今年のかしらは、このわしに決まったようなもんじゃわ」と、つぶやき、よだれを垂らしながら開門を今や遅しと待っておった。
やがて東の空がポッと白むと、ケケロッケー、ケケロッケー夜が明けたーと、里の方で一番どりが時を告げ、門はおもむろに開いたそうな。
牛は、にんまり笑うて門をくぐろうとしたとき、背中にいたネズミがぴょんと降り、チョロチョロっと門の中に入り、「明けましておめでとうございます。ネズミが新年のご挨拶にあがりました!」と、一番乗りを名乗ったそうな。で、牛は二番になり鼻の穴をべろでなめておった。
とらは、千里の道をヒューっと飛んできたが三番になった。
続いてうさぎ、たつ、へび、うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、いのししが入ってきたところで、門はチャーンと閉められたそうな。
これが、十二支のはじまりというわけだ。
ねこは、二日の朝早く門をダンダンたたいたが、神様に、「誰だと思ったらねこでねえか。おめえさん日を間違えただな。もう十二番までのかしらはとうに決まってしもうた。寝ぼけていねえで、つらでも洗って出直して来なされ」と言われ、すごすごと帰って行ったそうな。
それから、ねこは毎日顔を洗うようになったが、嘘をこいたネズミをいまもって、恨み、ネズミを見つけると捕まえるようになったんだとさ。
この話が職人衆の間に広まると、二日酔いかなんかで時間に遅れて仕事に来て仲間にはいれん者を「あいつはねこ年だ」と、言うようになったそうな。
民話集より